SDGsでつくる やわらかい未来

 「広報あんなか8月1日号」で掲載した指出一正さんへのインタビューにはもっと濃い内容がギッシリ詰まっていました。そこで紙面の都合上、掲載しきれなかった指出さんへのインタビューの全容をここに掲載します。SDGsってなんだかよくわからない、という人は、環境省の「SDGs人材育成研修事業検討委員会」の委員やSDGsをテーマにした「2025年大阪・関西万博日本館」のクリエイターであり、SDGsの特集を組んでいる雑誌、未来をつくるSDGsマガジン『ソトコト』の編集長でもある、指出さんのこのインタビューを読んでみることからSDGsの小さなスタートを切ってみませんか。

広報あんなか8月1日号はこちら

指出 一正 (さしで かずまさ)
『ソトコト』編集長。1969年群馬県生まれ。上智大学法学部国際関係法学科卒業。島根県「しまコトアカデミー」メイン講師、静岡県「『地域のお店』デザイン表彰」審査委員長、上毛新聞「オピニオン21」委員をはじめ、地域のプロジェクトに多く携わる。内閣官房まち・ひと・しごと創生本部「わくわく地方生活実現会議」委員。環境省「SDGs人材育成研修事業検討委員会」委員。内閣官房まち・ひと・しごと創生本部「人材組織の育成・関係人口に関する検討会」委員。BS朝日「バトンタッチ SDGsはじめてます」監修。「2025年大阪・関西万博日本館」クリエイター。著書に『ぼくらは地方で幸せを見つける』(ポプラ新書)。趣味はフライフィッシング。ソトコトオンライン:www.sotokoto-online.jp

:結局わたしたちはどのようにSDGsを実感として受け止めれば良いのでしょうか。

指出:例えば、スーパーで買い物をしているときに夕方5時くらいになると生鮮食品がタイムセールで安くなって残っていますよね。それを買うのもSDGsです。そのままでは、廃棄されてしまうものを廃棄されないようにする。自分たちの生活の中でもったいないと感じることがSDGsにつながっていくんですね。

なので、誰かが今挙げたようなことをしたときに、応援したり、共感するということ、その気持ちにつながることが「誰一人取り残さない社会」をつくるうえで大切です。SDGsはどこかの専門家に任せておけばいい話ではなくて、ぼくたちが少しでも、一粒でも、SDGs的なことを「いいな」と思う気持ちが増えていけば自然に持続可能な社会へとしっかり貢献していける、めっちゃハードルが低いものなんです。

SDGsは、すべて地域のこと

:17のゴールは、崇高で、はっきりとつかみにくい感じがありますけど、実は身近な場所からスタートできるんですね。

指出:SDGsってグローバルに捉えられがちで、総論をみるとなんだか壮大なテーマに感じる人も多いと思います。でも、実はこれは全部、地域のことなんです。地域で起きている課題を解決するために国連が定めた目標なんです。世界中のあらゆるローカル、つまり地域、例えば安中市に住んでいるのと全く同じ立ち位置にいる世界中のみんなを救うためのゴールなんですね。
 ですので、まちを面白くするというのを自分ごととして考えることが大事なんです。SDGsというのは誰かが掲げている遠くの社会の目標ではなくて、自分ごととして、自分たちが住んでいる安中というまちをどう面白くしていったらいいか、誰一人取り残さない素敵なまち・安中をどうつくったらいいかを考えるときのひとつの指針になります。
 そう考えると安中市の皆さんが誰一人取り残されないで幸せになるためにSDGsはあるんだと理解できると思います。

:仮にSDGsを推進する際に運動体、またはコミュニティのようなものが形成された場合、そこから離れてみている人にSDGsを自分ごととして伝えるのはどういった方法があるでしょうか。

指出:コミュニティに入っている人は気分がいいけど、そこに入れていない人のことは意外と思いやれていないってことは、よくありますね。それが、コミュニティが拡がっていかない原因の一つにもなっています。今僕がよく伺っている日本の各地のコミュニティは半開きにしているんですね。半開きっていうのは、もう決まったメンバーが決まったことを決まった仲間でやっていくと大体5年とか10年でマンネリ化しちゃうんです。新しい人が入ってきて古い人は出ていき、そしてまた新しい人が入ってくるっていう流動性を担保した半開き感のあるコミュニティが各地域では増えています。一人が好きな人には声はかけないけど、その場所に来てもらって、人がいる雰囲気だけ感じて帰ってもらうと、それが意外と居心地が良かったりする。仲間だよね、っていうのが苦手な人もいますからね。
 だから一つはSDGsをよく理解するコミュニティが生まれたときに、そこに入らなくて良かったり、コミュニティの近くで自由に、カフェでも将棋クラブでもいいですけど、その周辺でSDGsの価値観にちょっとでも接点をもってくれる人が増えると良いかもしれないと思います。

:SDGsへの関わり方も、人それぞれの場所や考え方で広く、多様な視点でとらえることが大事ですね。

指出:そうですね。そこが大切な視点ですね。

:年が明けてからのコロナ禍の中にあって、SDGsの捉え方は何か変わりますか。

指出:実はSDGsには、保健や衛生健康福祉系でも、ものすごく細かく項目が入っていて、新しいウイルスであったり、気候変動など全世界的に取り組まなければならないことも目標として書かれています。なのでSDGsが軌道修正するというより、SDGs的な社会への加速度を増さなければならない、という風に考えていいと思います。
 SDGsの目標達成の2030年まで残り10年です。国連が考えていたようにうまく進んでいるかというと、ここに来てコロナ禍の影響もあり、なかなか困難を極めています。2020年からは行動の10年ということで、国連もアナウンスしています。SDGsを知っている人が全世界的に増えていますが、日本はまだまだですので、次は行動のスピード感を出さないといけないですね。

:コロナ禍によってSDGsを見直すということではなく、コロナ禍をきっかけとして、今までより自分ごととしてSDGsに取り組んでいくきっかけとしてとらえる、ということですね。

指出:そうですね。SDGsは全世界の未来の目標であるけれども、個人の未来の目標はもっと小さなものでもいいわけです。自分の息子や娘が楽しくすくすく育ってくれたらいいなとか、そういう小さな未来に17のゴールを照らし合わせるってことですかね。例えば海に連れて行って、海っていいなって子どもたちが思ってくれたら、これは「海の豊かさを守ろう」につながっていきます。
 少し話題は逸れますが、関連している話とするとSDGsには2つの視点が大切で、全世界的にSDGsを目標としていけばより住みやすい社会が全世界的に訪れる、これは大事なSDGsの視点です。
 もうひとつ大事なのは環境省がこの言葉を提唱していて、凄くいいなと思っているのが、「地域循環共生圏」っていう言葉です。地域循環共生圏というのは、まさに安中市のような文化、教育、産業、自然などいろいろなものが整っているからこそ実現しやすい価値観だと思うのですが、自律分散型のコミュニティとして、自然景観などの地域資源を大切にして、自分たちの地域の中でゆるやかで持続可能な共生圏をつくり、お互いを支えながら廻していくということです。
 何か災害があったときに、お互いが広い範囲で融通し合うグローバリズムの恩恵もこうむれるけれど、同時に、地域外からお米をもってこなくても、自分たちで野菜やお米を作っているから暮らしていけるよねという、そういう社会の視点です。そういった2つのハイブリッドな社会をつくるべきではないかと思います。今のところはないものはどこかから持って来ればいいだけみたいになっているのが資本主義の構造なので、それを考えると、例えば安中市の中でお米や仕事や教育やエネルギーやそういったものを地域循環させていくっていうカッコいい政策があって、となりの高崎市や長野や新潟や栃木、茨城ともお互いに資源や経済などを補完しながらうまくやっていくようなイメージです。日本の地域が強くなっていくためには、このSDGsの視点から語られる地域循環共生圏という考えはとても大事ですね。

未来をやわらげる

:コロナ禍で、ひとつの課題に対して、複数の視点から考えるというのは、政策的にとても大切に感じます。

指出:先ほどのコロナ禍を通してのSDGsという意味でも2つの視点が必要だと思います。左目ではいまの自分が今暮らしている明日とか来週のことを考えなきゃいけない、もうひとつの右目ではそれが終わったあとの社会を見ておかないと。僕たちはコロナを抜けきるまでが人生ではありません。コロナを抜けきったあとにどう楽しくて、面白くて、笑えたりする社会を作れるのかも考えておいたほうがいいわけですよね、
今自分の中で考えることを2つの道を作っておいて、ひとつは短距離に今のコロナ禍のことを考える、もうひとつはもしかしたらもっと遠くまで行ける長距離道路として自分たちや自分の家族やお孫さんや自分の好きな人たち、自分たちの暮らしている安中市というまちがより素敵なまちになっていったら自分も楽しいわけだから、そのためにどうしたらいいか、といったときのロードマップとしてSDGsをみておいたらいんじゃないでしょうか。

:わたしたちの今を考え、未来を想像するということですね。

指出:そうですね。ただ、未来に希望を持てる人ばかりじゃないと思うんですよね。「自分の将来、不安だな」というのが若い人たちの本音でもあるわけです。未来っていうと輝かしくてワクワクするものっていう風に一面だけで語られがちなんですけど、みんながその未来を楽しめるように、未来をやわらげておくことが大事ですね。どういうことかというと、「いい大学に入って、いい企業に入ることが輝かしい未来」だって、理想を決めすぎると「そうならなければ!」って、カチカチした固い未来になってしまう。でも、いろいろなことが起こるのが人生です。もともと目指していたわけではないけれど、今でいえばユーチューバーになっていたりする人もいるわけじゃないですか。未来ってやわらかいものなんだって認識することが大事です。未来っていうのは誰かが作ったり、誰かに決められるゴールじゃない。全員の命が輝くような未来をSDGsは作りたいと思っているので未来がやわらかいものになるかならないかは、僕たちがどうSDGsのゴールに取り組むかによるわけですよね。例えばプラスチックごみが群馬県内の上流から流されてきて、海に広がって、海の豊かさがなくなったら僕たちの未来は海では泳げない、海でははしゃげない未来がくるわけです。それはきっと固い未来ですよね。海が安全で、楽しめるようになればそれはやわらかい未来です。そういう風に物事のつながりを考えるのは大事ですかね。

SDGsと子どもたち

:安中市がこれから取り組むにあたり、どんなゴールが適していますか。

指出:安中市はポテンシャルがあるんですよね。日本の各地の、特に西日本のまちづくりの先端を走っているまちって、人口が2万、4万、6万くらいのまちなんですね。そのまちの人たちや若い人たちが何かをやるときに、もともと知っている関係性がいっぱいあったりとか、ある物事のプロセスを経るまでの人数が少ないとか、そういう意味でスピード感がある。そうするとイノベーションが生まれやすいんです。安中市は、人口の規模感とか森や川や湖があって商圏に近い立地などが、若い人たちにとって挑戦しやすい場所だなと思っています。
 そう考えるとゴール11の「住み続けられるまちづくりを」はよく合いますね。
 あと、安中市は災害に強いですよね。ただし、今は災害がどこでも起きる可能性のある社会になってしまったので、何かが必ず起こりうる中で備えられているっていうことがみんなの安心につながっていきます。
 なので、みんなが安中って安全だなって感じられるようにまちの健康度を上げていくことが良いと思います。これからはひとりひとりの個人だけでなく、地域や世界が健康になっていかなきゃいけないと考えています。別にマッチョじゃなくてもいいんですが、住んでいて心も健康で体も健康で、安心な市っていうのはSDGsの文脈にピッタリだし、安中市の目指す方向に特に合っていますね。

:今後のSDGsの在り方、進め方についてどうお考えですか。

指出:自分たちが何をするかっていうのも大事なんですけど、今の社会と大人がSDGs を広く伝えていくことで、次の社会をつくる子どもたちがこの空気感をとても大事だと思って成長していった結果、イノベーションが起きたり、それこそ新しい安中市をつくるような若者に育っていくことになります。SDGsに影響を受ける子どもたちが確実に育っている時代なので、そのバトンの受け渡しを大事にするといいんじゃないかなと思います。